挑戦を恐れるな。旅立ち前夜の決断ストーリー

小説

空港にて
著者:村上龍
出版社:村上龍電子本製作所
装丁:Kindle版(125ページ)
発売日:2019-12-04
ASIN:‎B081YFL4SN

内容紹介:コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム――どこにでもある場所でおきた8つの希望の物語。
クリスマスイブの夜、新宿を1人で歩きながら「いつかモロッコへ行こう」と言った男性のことを考える27歳の女性。コンビニでサンディエゴの映画技術学校へ行くことを思案する22歳の青年。アフガニスタンの地雷被害者に義足を作りたいと思う、33歳の風俗嬢…。8人の登場人物がそれぞれ抱く個人的な希望を、細かな情景描写とともに書き込んだ短編集。

新たな挑戦への期待と不安

東側で生まれた少年たちは、選択肢を持たなかった。
学校へ行く。働く。酒を飲む。そしてたまに殴るか、殴られるか。
「自由」なんて言葉を知ったのは、壁が壊れたあとの話だった。

そんな時代に、クレメンス・マイヤーは「文学」で生き延びた。
これは、旧東ドイツの”半グレたち”から学ぶ、逆境のサバイバルマニュアルだ。

この本に出てくる男たちは、働いていない。もしくは、働くフリをしている。
借金取りに追われ、女に振られ、酒をあおって転がるように生きている。
だけどそこには、なぜか「誇り」がある。

まともな職に就くこと。社会に適応すること。
現代のおれたちはそれを「安定」と呼ぶけれど、
彼らが生きた街では、それはただの「敗北」に見えたのかもしれない。

だから彼らは、地下で闘った。
ナイフも銃も持たずに、ただ自分の「語り」と「存在」で。

クレメンス・マイヤーはその闘いを、詩のような暴力で描く。
やり直しのきかない世界で、それでも言葉を吐き出すことだけはやめなかった人間たちの姿を、
おれはなぜか、他人事とは思えなかった。

2018年「希望の灯り」として映画化

深夜のスーパーマーケット。
フォークリフトが静かに走り、誰も話さない倉庫で、人々はただ黙々と商品を並べている。

映画『希望の灯り(In den Gängen)』は、旧東ドイツのスーパーマーケットで繰り返される“何も起きない”夜勤の風景を描いている。
だけどこの映画には、どんなアクション映画よりも深い“闘い”がある。

原作はクレメンス・マイヤーの短編集『夜と灯りと』に収められた「通路にて」
監督のトーマス・ステューバーも、マイヤーと同じく旧東ドイツ・ライプツィヒの出身だ。
“あの時代”を知る者たちの目にだけ映る、言葉にしづらい静けさと痛み。

小説に漂っていた、「生きてはいるけれど、もはや何も望んでいない」男たちの気配。
それが映画という形になったとき、より強く、より鋭く、おれの胸に残った。